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がん社会を診る 子宮頸がん 予防も可能
2015.03.25
子宮頸(けい)がんは年間約1万人の日本人に発症し、約2700人が死亡しています。原因の100%近くが性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染です。
性交渉開始年齢の若年化などに伴い、子宮頸がんが若い世代に急増しています。1970年代は60~70代がピークでしたが、80年代に40~50代に移行し、現在は30代にもっとも多く発症します。20~30代の罹患(りかん)率は過去20年間で2~4倍に達します。
女性の約8割がHPV感染の経験を持ちますが、がん発症に至るのは、そのうちの0.1%程度です。ただ、ウイルス感染がなければ、子宮頸がんを発症することはまずありません。ワクチンによる予防が可能で、欧州では接種率が7~8割に上ります。
HPVにはいくつかの型があり、すべての型の感染をワクチンで防げるわけではありません。しかし、接種すれば子宮頸がんの発症リスクは3割程度まで下がります。さらに、がん検診も受けていれば、このがんで命を落とすことはほぼなくなります。がん検診も当たり前の欧米では「過去のがん」になりつつあります。
日本でも、HPVワクチンは予防接種法に基づく定期接種が可能です。しかし、接種後に痛みや運動障害などが生じ、健康を害したとする保護者らの声を受けて、予防接種の安全性を議論する厚生労働省の検討部会は2013年6月、ワクチン接種の「積極的な勧奨は一時控える」という判断を下しました。この状況は現在も続いています。
韓国などでも、日本の影響を受け、ワクチン接種率の低下を招いているようです。しかし、世界保健機関(WHO)などは、日本が積極的勧奨を取りやめた後も、繰り返しワクチンの有効性と安全性に関する宣言を発表しています。
痛みなどとワクチンとの因果関係については、専門家の間でも見解が異なっています。ワクチンを推進する立場と慎重な立場では、溝が深いのが現状です。一方、海外ではすでに子宮頸がんの原因となるHPV感染の約9割を予防する新しいワクチンも承認されています。
当事者の不安や心配もよく分かりますが、日本が「子宮頸がん大国」にならないよう、国などが状況の打開に向けて取り組む必要があると思います。
2015.03.22 日本経済新聞より