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自分の免疫フル活用 がん患者に光

2016.01.12

もって半年。国立がん研究センター皮膚腫瘍科の山崎直也医師は東京都在住のAさん(86)をこう診断していた。昨年夏、ぼうこう表面に悪性黒色腫(メラノーマ)が見つかり、肺にも転移が確認された。

■日進月歩の技術

ところが小野薬品工業が開発したがん免疫治療薬「オプジーボ」を投与したところ、腫瘍が消えた。「痛くもないし、食欲も落ちなかった」とAさん。今も元気にがんセンターに経過観察で通っている。

人には、ウイルスなどの異物が体内に侵入すると免疫細胞がこれを攻撃、体調の悪化を防ぐ仕組みが備わっている。がん細胞は盾を使って攻撃を防ごうとするが、オプジーボは盾を無力化し、死滅に追い込む。

このメカニズムを発見した京都大の本庶佑名誉教授は「全てのがんに効きそうだ」と期待する。現時点で厚生労働省が承認しているのは悪性黒色腫と肺がんの治療だけだが、小野薬品工業の粟田浩・副社長執行役員は「十数種類のがんで適用できるよう臨床試験をしている」と明かす。

医療技術は日進月歩。免疫療法は手術、抗がん剤、放射線に続くがんの「第4の治療法」としての確立が待たれ、病気の発症にかかわる遺伝子を調べ、患者ごとに最適な治療薬を使い分けようという「ゲノム医療」も最近の注目株だ。

がんは1981年から日本人の死因の第1位。今や生涯のうち2人に1人がかかるといわれる。重大な国民病でもあるが、近い将来には患者は激減しているかもしれない。新技術はそんな期待を抱かせる。

ところが、足元に目を向けると夢はしぼむ。

■体制にばらつき

がんによる「痛みが制御できている患者は約6割」。厚労省が昨年6月、これまで進めてきたがん対策に対する中間評価報告書をまとめたところ、こんな結果が出た。逆に言えば、4割の患者が痛みに苦しむ。

痛みをコントロールする「緩和ケア」は終末期のものと思い込んでいる医師が多いことなどが原因のようだ。調査はがん診療に力を入れる拠点病院で実施しているので、実際に苦しむ患者はさらに多いだろう。全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は「痛みを取ることは医療の根源的な部分なのに」と嘆く。

卵巣がん体験者の会スマイリーの片木美穂代表は最近、患者からの相談で驚いた。「10年以上前の時代遅れの治療をやっている病院が都内にあった」からだ。

政府は全国どこに患者がいても科学的根拠に基づいた最良のがん治療が受けられる体制づくりを目標に掲げてきた。ところが現実は遠く、病院ごとにばらばらな治療がなお残る。

「患者中心と言いながら、患者の困っている声が届いていない」(片木代表)。がん対策は先を見た研究だけでなく、足元を固めることも忘れてはならない。

患者数が多い「国民病」の治療やサポート体制を充実させれば、自立して暮らせる期間(健康寿命)は今よりも延びる。国民病克服に向けた動きを探る。

2016.1.10 日本経済新聞より

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