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がん治療新時代(上) 画期的な新薬 免疫活用、日本で産声

2017.02.10

がんの治療が大きく変わろうとしている。日本人研究者の成果から画期的な新薬が誕生。膨大な患者の遺伝情報を解析して最適な治療法を探す試みも進む。副作用に耐えながら治療を進める患者の姿は一部で変わり始め、長生きできることも珍しくなくなってきた。

「すごいショックで数日間は泣いて過ごした」。東京都に住む佐藤さん(44)は2011年、主治医から肺がんの再発を告げられた。34歳で発症し、手術後の経過観察中だった。説明では、小さながんがあちこちに散らばっていた。

投薬後ほぼ消滅

「子供に恥ずかしい姿を見せられない」と前向きに闘病を決意。しかし1年半後、がんは大きくなり抗がん剤の治療を受けた。進行は止まったが、全身が痛むなどの副作用に苦しんだ。

佐藤さんを救ったのは米メルクの日本法人が15日にも発売するがん免疫薬「キイトルーダ」の臨床試験(治験)への参加だ。湿疹などの軽い副作用があったが、2年後の画像検査でがんはほぼ見えなくなった。短大で学んだ声楽を再開した。がん患者らの前で歌う計画もある。「みんなを元気づけられたら」と話す。

がん免疫薬は体内で異物を排除する免疫の働きを使う。がん細胞は自分を攻撃させないように免疫をおとなしくさせる。その仕組みをはずしてがんへの攻撃力を高める。高額薬として問題になった小野薬品工業の「オプジーボ」やキイトルーダなどが国内外で承認されている。米食品医薬品局(FDA)は「画期的新薬」に指定した。

抗がん剤は延命効果はあるが、完全に治ることはほとんどない。がん免疫薬は長期間がんを抑えるという。進行がんの患者に抗がん剤を使っても延命効果は長くて1年半ほどだが、がん免疫薬は効けば3年以上という例も珍しくない。兵庫県立がんセンター呼吸器内科の里内美弥子部長は「こんなに長く再発を抑える薬はなかった」と驚く。

がん免疫薬は京都大学の本庶佑名誉教授の発見にもとづく。本庶名誉教授はがんが免疫の攻撃を避ける仕組みを突き止め、ノーベル賞の有力候補と目される。

がんが免疫の攻撃から逃れる別の仕組みでも臨床応用が進む。大阪大学の研究チームはがんの周囲を覆って免疫の攻撃から守る特殊な細胞に着目した治験に取り組む。この特殊な細胞を発見した坂口志文特任教授もノーベル賞候補といわれている。

効果には個人差

この治療法では、がんを守る細胞の働きを止め、無防備になったがんを免疫に攻撃させる。余命1年半ほどと宣告された末期の白血病患者で試し、普通に生活できるまでに回復した。江副幸子講師は「今の薬が効かない患者の治療が期待できる」と話す。

日本がん免疫学会理事長の河上裕慶応義塾大学教授は「がん治療にパラダイムシフトが起きた」とみる。

しかし、効果がある患者は最大でも3割ほどだ。重い副作用が出ることもある。事前に効く患者を見極めることが欠かせない。

京大の小川誠司教授らはオプジーボの効き目を予測する技術を開発。鹿児島大学の石塚賢治教授らが白血病患者で有効性を確かめる治験に取り組む。ただ、この予測法は全ての患者に使えるわけではなく、より優れた技術の開発が必要だ。

世界では新たながん免疫薬の治験が1000件以上も進んでいる。今後も画期的新薬の開発は続く。

2017.1.9 日本経済新聞より

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