2013.6.25
最先端のがん治療装置として「陽子線治療装置」が注目されている。放射線治療の一つで、がん細胞を狙い撃ち、副作用を最小限に抑えるという。日本が強みとする治療法で、政府は海外への輸出も期待していると聞く。どんな治療法なのだろうか。
がんの治療を受けるAさんは、患部を切り取る手術や抗がん剤を投与する方法ではなく、放射線治療を選んだ。がん細胞に放射線を集めて、死滅させる。放射線ではエックス線がよく知られるが、今回は陽子線を使うという。陽子線とは何だろう。
陽子線治療装置の納入で多くの実績がある三菱電機の電力システム製作所(神戸市)には、実際と同じ規模の研究用装置がある。三菱電機の津上浩伸・加速器応用システム設計課長は「陽子線とは、水素の原子から電子をはがした『陽子』と呼ぶ粒子のビームです」と説明を始めた。
装置は大がかりだ。陽子を直径約7メートルの円形装置で回して光速の60%まで加速する。ビーム(陽子線)にした後、患部のがんを狙って照射する。原理上はがん細胞のDNAが陽子でバラバラになり、死んでしまうという。
「がん細胞がいなくなるのはいいけど、健康な細胞も壊れてしまうのか」。放射線治療も進歩しているので、むやみに体を傷付けはしない。でも不安に思う人はいる。
陽子線治療は広く普及している放射線治療のエックス線やガンマ線と違って、体の深いところで最も放射線の威力を発揮できると説明される。
津上さんは「エックス線やガンマ線は体の表面から数センチメートルの深さで最も放射線量が大きく、体の深くに入るほど減っていく」と話す。
陽子線は数センチメートルのところではエネルギーが微弱だが、がんがある深さ15センチ辺りで一気にエネルギーを解放する。「ブラッグピーク」と呼ぶ現象だ。樹脂で陽子線の勢いを弱めてから体に当てれば、ピークを15センチより浅いところにずらせる。
体の表面近くでエネルギーのピークがくると、健康な細胞が傷付く恐れもある。エックス線でより強い放射線をがんに浴びせるには、手前の健康な細胞が受ける放射線量が増す。深くで効果を現す陽子線であればリスクは減る。
左肺に直径数センチの腫瘍があった患者では、治療を続けた1年5カ月後、腫瘍は画像診断で見えなくなった。
再発を繰り返した肝臓がん患者の場合、7年間で6回の陽子線照射をした例があるという。兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市)の出水祐介医療部長は「エックス線であれば肝臓への被曝(ひばく)の問題から、これだけの繰り返し照射は難しい」という。
陽子線の仲間には「重粒子線」もある。水素より重い炭素を使い、さらに強いビームになる。重粒子線治療と呼ばれる。出水部長は臓器ごとに陽子線と重粒子線を使い分ける。陽子線の特徴は「曲げやすい」(出水部長)。様々な方向から照射しやすく、体の奥深くにある膵臓(すいぞう)がんでは陽子線が使いやすいという。
同センターでは治療効果を引き出す狙いもあり、陽子線治療と抗がん剤の「ジェムザール」の併用を試みる。膵臓がんの患者50人の治療成績を分析したところ、1年後の生存率は76.8%、81.7%は再発しなかったという。
神戸大学の松本逸平准教授によると、手術できない段階まで進行した患者50人にジェムザールを投与しただけの治療成績は1年後の生存率が64%という結果があるという。
普及しているエックス線も新たに多方向から患部を狙うなどの工夫で治療成績を上げている。松本准教授は「1年では放射線治療も抗がん剤併用の場合とあまり差はない。ただ2~3年後でみると(陽子線を含む)放射線治療によって長期生存できている人の報告もある」と説明する。
自己負担は300万円
陽子線照射の人体への影響も検討は必要だが、一つの治療法として研究はさらに進むと専門家はみる。治ったと思っても再び命を脅かすことが多い膵臓がんは陽子線治療への期待も高い。手術法や抗がん剤も進歩しており、陽子線治療が加われば「様々な治療法の組み合わせができる」(松本准教授)。
とはいえ、陽子線治療はさらに治療実績を積み重ねていく必要があるだろう。今はあくまで先進医療であるため、陽子線の照射に伴う300万円近い治療費は自己負担になる。健康保険はきかない。医師と相談した上で、他の治療法と冷静に見比べることも重要だ。
2013.6.21 日本経済新聞より
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