2013.10.25
がん研究が大きく変わろうとしている。これまで謎に包まれていたがんの正体に遺 伝子レベルで迫れるようになり、がん細胞の個性に応じ患者一人ひとりに合わせた薬 選びを進めたり、ごく小さな1ミリレベルのがんでも早期発見できる診断技術が登場 してきた。政府もこうした研究の成果をいち早く患者に届けるため動き出す。がん研究の最前線を追った。
「すでに6人の患者が臨床試験(治験)に入った」。10月上旬に横浜市で開いた日本癌学会で、国立がん研究センター東病院の後藤功一呼吸器内科外来医長は力強く報告した。病状が進行して手術ができない患者を対象に、がん細胞が増える原因の遺伝 子だけを個人別に突き詰めて、それに合った薬を選ぶ治療法を始めたからだ。
■薬で原因たたく
がんの遺伝子の変化を見分けて、患者ごとに効く薬を探す(国立がん研究センター研究所)
新治療法はがん細胞の個性に注目したのが特徴だ。遺伝子を調べてがん細胞の増殖 を促す「ドライバー遺伝子」を特定。患者1人ずつ種類が異なるため、遺伝子を解析した後、薬で治療する。国立がんセンターなどでは「RET融合遺伝子」というドライバー遺伝子に着目した。治療法がない肺がん患者を対象に、国内では未承認の甲状腺がん治療薬のバンデタニブを投与する治験を今年から始めた。
RET融合遺伝子を持つ人は肺がん患者のうち1~2%にすぎないが、新薬を投与 した患者への効果は良好。最終的に治療効果が確認できれば「3~4年以内に新薬として申請する」(後藤医長)。
がんはストレスや食生活など様々な環境要因によって細胞の遺伝子が傷ついて発生する病気だ。これまでがんに関連する遺伝子は数百個も見つかっているが、患者によって原因となる遺伝子が異なり、治療の戦略として絞り切れていなかった。
こうした閉塞感を打ち破ったのは、DNAを高速で読み取る「次世代シーケンサー」だ。患者ごとにがん細胞のDNAを読み取り、どの遺伝子が本当の原因なのかを突き止め、治療の標的となる“顔”が判別できるようになった。
■DNA読み取る
ドライバー遺伝子はその中で最も特徴のある顔だ。これまで肺がんでは7個見つかっている。「EGFR」という遺伝子に変異がある患者は分子標的薬ゲフィチニブ(一般名イレッサ)などを使えばがんの増殖が止まることがわかってきた。
肺がんでRET融合遺伝子の働きを突き止めた国立がん研究センター研究所の河野 隆志分野長は「主要なドライバー遺伝子は今後2~3年で見つかるはず。現在治りにくいがんの効果的な治療の標的になる可能性が高い」と期待を込める。
膵(すい)がんでも、ドライバー遺伝子を標的にした治療の検討が始まった。香川大学で手術を受けた約100人の膵がん患者を対象に、「KRAS」など4つの遺伝子 を調べたところ、いずれも変異があると5年生存率は最も低かった。分析を手がけた 国立がん研究センター研究所の谷内田真一ユニット長は膵がんは「4つの遺伝子の組み合わせで悪性度が決まる」と指摘。4つの全ての遺伝子に異常がある人は転移しやすく、手術後に抗がん剤投与を始めるなどの治療も効果がある可能性が高い。
ただドライバー遺伝子の課題も多い。制御できる薬の開発には時間がかかる可能性があり、治療効果も未知数な部分もある。
1981年から日本人の死因トップになったがん。急速な高齢化を背景に患者数は増え続け、現在約3人に1人はがんで死亡する。特に5年後生存率が低い難治がんは効果 のある薬の開発が遅れてきた。細胞の個性に関係なく同じ抗がん剤を使ってきたからだ。
要因の一つは「同じ臓器のがんでも性質に違いがあることがわかりにくかった」(河野分野長)ため。ようやくがん細胞の顔は見え始めた。がんの本丸を攻める治療法の開発が動き出した。
2013/10/22 日本経済新聞より
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